日差しが眩しく感じられる今日この頃。『着心地のいい服・盛夏号』では、ひんやり涼しい強撚綿や肌離れの良いリネンなど、この季節を快適に過ごすためのアイテムを揃えました。
中でもご注目いただきたいのが、『着心地のいい服』でも何度か登場し、そのたびにご好評をいただいている「東炊(あずまだ)き」を使用したリネンのセットアップです。驚くほど柔らかく、他に感じたことのない独特の風合いはどうやって生み出されるのか――その秘密を知るために、ある染工場を訪ねました。
東京・下町生まれの東炊き。
素朴で優しい柔らかさを生み出す職人技。
東京都墨田区、東京スカイツリーすぐ近くの大通りから少し逸れた住宅街に湯気が立ち込める工場があります。1951年からここに拠点を構える川合染工場です。「創業以来ここで染色を続けています」と話すのは、社長の川合創記男(そきお)氏。日本の染めの技術を活かすことを何より大切にしながらものづくりを続けています。
東炊きもその一つ。由来は江戸時代にまで遡ります。当時は、織り上がった生地を小さな五右衛門風呂に入れ、草木から抽出した色を混ぜてじっくりと煮る「釜入れ」という方法で染色されていました。その技法を現代によみがえらせたのが東炊きです。
▲右から大塚氏、川合氏、着心地スタッフ。東京スカイツリーを臨む工場。
▲釜から生地を取り出す作業は二人がかり。
「東京の『東』の字から東炊きと名付けました」と語る川合氏に連れられ、まず見せていただいたのは、ドラム缶を横に倒したような形の染色釜。もくもくと立ち上る蒸気の中から、今まさに染め上げた生地が取り出される所でした。釜の大きさは思ったより小さめ。一度に大量の染色を行うことはできません。「この大きさの釜に入れることで生地同士が何度も揉みこまれて、しっとり柔らかな風合いになるんです」と語る川合氏。東炊きの特長は生地の驚くほどの柔らかさ、肌馴染みの良さ。専用の釜を使うことで、他にはない独特の着心地を実現するのです。
染め上げるまでの時間はおよそ一時間半。高温の湯気をものともせず、熟練の職人さんが二人がかりで生地を取り出し、次の工程へと移ります。瞬くうちに手早く進んでいく一連の作業に、スタッフ一同思わず感嘆の声を上げてしまいました。
利益より何より、とにかく良いものを作りたい――
情熱と信頼が再現させた江戸時代の染め。
東炊きを初めに提案したのは、川合染工場と付き合いの長い生地屋、小松和テキスタイルの大塚氏。
日本ならではの良い生地を作りたい、昔ながらの染めをよみがえらせたい。そんな想いから様々な染工場に声をかけましたが、なかなか頷いてもらえなかったと言います。
「技術的に難しいというのもありますし、やっぱりあまり儲けにはならないんですよ」と苦笑いを零す大塚氏。
小さな釜でじっくり染めるという技法では、どうしても一度に作れる生地の量に限界があり、安く早く大量生産することができません。いくつもの工場に断られて、ようやく請け合ってくれたのが川合氏だったのです。
▲染色釜について川合氏から説明を受けるスタッフ。
▲「東炊きリネンブラウス・パンツ」の生地が染められている。
「大塚さんの熱い想いに胸を打たれて」と笑う川合氏。少ない量の発注でも構わない、面白そうだからやってみようじゃないか。そんな二人の情熱から始まった東炊きですが、最初は上手くいかず、納得のいく形になるまで試行錯誤を繰り返しました。
江戸時代によく見られたというしなやかな風合いを再現するには、数年の歳月を要したと言います。「苦労しましたが、おかげで良いものができました。」日本製は良いものだと心から思ってもらえるものを作りたい――そう語る二人の目には、ものづくりへの確かな誇りと熱意がありました。
一枚でも、セットアップでも。
職人の誇りを懸けた着心地、ぜひお試しください。
このように『着心地のいい服』のアイテムはいずれも、丁寧で細やかな心遣いとこだわりによって作られています。
今回は東炊きの質感を活かした、シンプルで品の良いブラウスとパンツを仕立てました。肌にしっとりと馴染みつつ、リネン特有の爽やかさを備えた独特の着心地が魅力です。日本の職人の技術が叶えた特別な一枚、ぜひこの機会にお手に取っていただければ幸いです。
▲「東炊きリネンブラウス」(ネイビー)
「東炊きリネンパンツ」(ネイビー)