陽の光が日毎に眩しく感じられるようになってまいりました。風が爽やかに感じられるこの季節にぴったりのアイテムが、ここでご紹介する「かや織りワンピース」です。
湿度の高い日本の夏を快適に過ごす技とこだわりがつまった逸品で、大人の女性が品よく着こなせるデザインに仕上げています。古来からの伝統技術である「かや織り」の魅力を知るため、日本の原風景・奈良県奈良市に取材に伺いました。
始まりは奈良を愛する心から―
文化を守り育む、地域に根差した活動の理由。
古都・奈良。日本で最初に都が置かれた場所として悠久の歴史を誇りながら、未だ手付かずの山々や広々とした田園風景に囲まれた長閑な暮らしが息づいています。
このたび取材に伺ったのは、「かや織り」を取り扱うメーカーであるとともに奈良の魅力を広く発信し続けている有限会社井上企画・幡。天然素材の小物や服、日用品などを扱いながら、奈良の風景を愛した写真家・井上博道(はくどう)氏の作品を展示・保存し、文化の発信を続けています。
▲右から、林田千華氏、着心地スタッフ。
「もともとは、写真家だった父の活動から始まったんです。父はお寺や仏様の写真を撮ることも多く、お寺の行事を手伝ううちに自然と企画会社を立ち上げることになりました」と語ってくださったのは、井上博道氏のご息女であり、現社長の林田千華氏。
お寺や檀家の方、地域の人たちに「こんなことができないか」と持ちかけられた相談に応える形で始まった会社でしたが、林田氏のお母様が奈良晒(さらし)や茶道具などを扱う問屋の出身だったこともあり、自然素材の手績(てう)み・手織りの雑貨を扱う今の形に近づいていったのだそう。
「最初は座布団とかお店の暖簾とか、そういったものを作っていました」と会社の成り立ちを話す林田氏。綿によるかや織りを始めたのは15年ほど前のこと。ご両親の想いを受け継いだ林田氏は、奈良生まれ、奈良育ち。古くから地元で作られているものを使って何かできないかと思い立ち、かや織りを活かした服を作り始めました。
日本人の生活に寄り添ってきた「かや」。
柔らかく鮮やかに、今の時代にも映える技と色。
▲熟練の職人による緻密な調整によって織られていく。
「かや織りは蚊帳のための織物です。奈良では昔から蚊帳の生産が盛んだったんですよ。」蚊帳の始まりは遥か昔、日本書紀にも記されています。古くは身分の高い貴族だけが使えるものでしたが、江戸時代以降に庶民にも広まるようになりました。奈良では数十年前まで、まだ蚊帳を織って売る家も多く、店先に蚊帳が積まれてあったと林田氏は言います。
「もう今ではすっかり見かけなくなりました。かや織りを扱っている工場も、県内で数件ほどになっています。」空調設備の普及と共に蚊帳は需要を減らしていきました。湿度が高く蒸し暑い日本の夏を乗り越えるために、古くから伝えられてきた技術を服に活かそうと考えたのは、井上企画・幡ならではの試みです。
今もかや織りを続けている工場に連れていっていただきました。
大きな織機が何台も並べられています。織られていく生地を見ながら、まず気づいたのは目が粗いこと。一般的な織物に比べて織りの密度が粗く、糸と糸の間に生まれた隙間が風を通すため、暑い日でも快適に過ごせるのです。一方でこの絶妙な粗さのために、糸の扱いや調整には長年かや織りに携わってきた職人の手作業が不可欠になります。
▲レピア織機、エアジェット織機など様々な織機が並んでいる。
▲工場で織られた色鮮やかな生地の数々。
一枚で服にするには薄いので、ワンピースは三重にして仕立てています。生地を重ねてもなお軽やかなのも特長の一つ。「本当に軽くて着心地が良いので、まさに生活に密着した素材だなと思っています」と実感を込めて話す林田氏。かや織りの生地は洗うたびにくったりと柔らかくなるため、日常的に着ることで自分の体に馴染むようになると言います。「育てる生地」とも呼ばれるその絶妙な着心地に魅せられ、何枚も買い求める方も多いそう。
さらに魅力的なのは、井上企画・幡で扱うかや織りの生地はどれも美しく鮮やかな色をしているということ。「日本の伝統色で揃えています」と微笑む林田氏。鉄紺(てつこん)、山吹、若竹、紅(くれない)…その名前の凛とした響きもしっくりと私たちの心に馴染みます。瑞々しい色彩は、古くから日本人に愛され続けてきた証でもあるのです。
昔ながらの知恵と技術が生きる、さらりと軽やかなワンピース。
長く楽しめる上質な着心地をぜひお楽しみください。
最近では生地の裁断くずを糸に紡ぎ直して服を作るなど、資源や素材を大切にする取り組みを進めていると言います。
「ものを大切に使うことも、昔ながらの日本の暮らしの知恵だと思っています」と林田氏。古くからある技術を現代に活かしたい、地域の文化や魅力を発信し続けたい。そんな想いの込められた「かや織りワンピース」は、日本の夏にぴったりの涼やかな一枚です。夏場にリラックスしてお召しいただけるのはもちろん、中に一枚タートルなどを重ねることで春から秋まで長く着ていただけます。日本製の確かな技術と、着る人を第一に願う気持ちが生み出す心地よさを、ぜひお試しくださいませ。
「かや織りワンピース」は、カジュアルにもエレガントにも着こなせる一枚。ドルマンスリーブで肩回りが楽に動かせ、ゆったりとしたデザインで快適な着心地。洗うほどに生地がふんわりと柔らかくなります。
開きすぎない上品な衿ぐりと、タック入りの袖口で女性らしい印象。軽くて肩が凝らないのも嬉しいポイントです。