草花が芽吹き、春の訪れを感じる季節になりました。『着心地のいい服』2025年春アイテムは、軽やかな風合いと彩り豊かな色合いの「春を着る」アイテムが揃いました。

中でも特におすすめしたいのが、「軽やかデニムコート」です。デニム特有の素材感を保ちながらも驚くほど柔らかく、羽織るだけで春らしさを楽しめます。
今回はこの特別なデニムコートの生地がどのように作られているのかを知るべく、国内屈指のデニム生地の産地である、岡山県倉敷市・児島地区の工場を訪ねました。

▲片山会長(右)と着心地スタッフ(左)。

じっくりと時間をかけて深まる藍色―匠の技で紡がれる、唯一無二のデニム生地。

瀬戸内海を望む児島地区は、古くから繊維産業が盛んな“繊維のまち”として知られています。かつては学生服の一大生産地として発展し、その技術を応用して国産デニムジーンズの発祥地として名を馳せています。今回取材したのは、明治38年創業の株式会社ショーワ。国内でも珍しい、染色から織り、仕上げ加工までを一貫して自社工場で手掛けるデニム製造メーカーです。

「織物を作るには、まず(たて) 糸を準備することから始まります」と語るのは工場を案内してくださった下畠氏。最初の工程では、経糸を1本1本均一に整え、糸巻き機に巻き取る「整経(せいけい) 」から始まります。「経糸は織物の骨格。少しでもズレると生地が歪んでしまうので、目を凝らして慎重に整えます」その言葉通り、数百本の糸が綺麗にピンと張られており、思わず息をのむ美しさです。

▲手前から奥に向かって徐々に綺麗な藍色に染まっていきます。

続いての工程はデニム生地の製造で重要な「ロープ染色」。ロープ状に束ねた糸をインディゴ(藍)染料に浸し、引き上げる作業を約10回繰り返す染色方法です。インディゴ染料は空気に触れて酸化することで美しい色を出すため、浸した糸は見上げるほどの高さまで引き上げられゆっくりと色を定着させます。この工程により、染料が糸の外側から徐々に浸透し、糸の芯が白く残る「中白(なかじろ) 」の状態が作られます。これがデニム特有の奥深い色合いや陰影を生み出す秘訣とのこと。

織り工程では、大きな織機が並び、リズミカルな織音が心地よく響いていました。特に目を引いたのは、1960年頃に製造されたシャトル織機「GL-3」。1980年代以降は生産されていない幻の織機とも呼ばれ、半世紀以上にわたって稼働し続けているとのこと。替えの利かない織機のため、熟練の職人が日々丁寧に調整を行っています。そして織り上げられた生地は、洗い加工を経て柔らかさや風合いを最終調整していきます。

新しい技術を取り入れ挑戦を続ける―今日も着たいと思われることを第一に考えた真摯なものづくり。

かつて児島には多くの機屋がありましたが、今では減少しているとのこと。そんな厳しい環境の中、ショーワは数々の挑戦を続けてきました。「私たちの最大の強みは、一貫生産体制にあります」と語るのは、会長の片山氏。以前は一部の工程を外部に委託していたものの、納期や品質の管理が難しいことから、すべて自社で手掛ける体制に。高い品質を維持しながらお客様の多様なニーズに柔軟に対応できるようになったといいます。また、一般的にデニムは綿素材が主流ですが、リネンやシルクなどの素材をインディゴ染めする独自技術を開発し、唯一無二の生地を生み出しました。

▲綿花が心地よさそうにそよ風に揺らいでいました。

創業100年を超える老舗企業で新たな挑戦を続けることのモチベーションを伺うと、「新しいものを生み出し、お客様に喜んでいただける瞬間が何よりの喜びです。それがものづくりの原動力となっています」と微笑みながら答えてくださいました。そして「いい服は、着るほどに肌になじみ、今日も着たいと思わせるものです。私たちはそんな生地を作り、心が豊かになる特別な1着をお届けしていきたいのです」そう語る会長の目には、温かくも揺るぎない情熱と信念が宿っていました。

工場の裏手には、一面に広がる綿畑がありました。綿への理解を深めるため、社員全員で大切に育てているそうです。工場内ではスタッフの方々が、お揃いのダンガリーシャツとデニムパンツに身を包み、一心に作業に取り組んでいました。その姿からも、生地への深い愛情とデニム製造への確かな誇りを感じ、背筋が伸びるような気持ちになりました。

『着心地のいい服』は創刊10周年になります。

『着心地のいい服』は、今年で10周年を迎えます。これもひとえに、皆様に支えられご愛顧いただいたおかげです。皆様からの温かいお声に支えられ、成長を続けることができました。これからも「天然素材」「日本製」のコンセプトを守りながら、あなた様の毎日にそっと寄り添うお気に入りの『着心地のいい服』でありたいと、スタッフ一同心より願っております。

軽やかデニムコート