花のつぼみもほころび、日差しに温もりを感じる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
『着心地のいい服・2026年春号』では、ふわりと柔らかな肌触りや、身も心も弾むような優しい着心地のアイテムをそろえています。
特に今回おすすめしたいのは、麻由来のリネンとラミーを混紡し、さらにコットンを加えて織り上げたスプリングコートです。
肌寒い季節からさらりと羽織れる軽やかな着心地の秘密は、織りと染めの特別な技術にあります。
その生地を生み出している産地、静岡県・遠州地域へ取材に伺いました。
静岡県・遠州は、日本でもっとも晴天が多い温暖な地域の一つ。綿花の栽培や機織り、天日干しや染色といった加工に適していたことから、綿織物の産地として栄えてきました。
今回訪れた『丸三織物』は、そんな遠州で、なんと麻の織物を主に扱う珍しい織工場です。「昔は綿織物と言えば遠州でしたが、最近は海外の安価な商品がたくさん入ってくるのでなかなか難しくて」と話すのは代表を務める加藤寿佳氏。麻の織物でなら海外製品とも勝負ができる…そんな想いでリネンやラミー、ヘンプなどの麻を扱い始めたと言います。

▲右から加藤氏、着心地スタッフ。
麻織物を始めたのは先代からとのことですが、加藤氏はさらに「麻で他の人ができないことをやってみよう」と一念発起。機械の扱い方や素材の違い、わからないことだらけのところからスタートし、今では先代をしのぐ数の麻生地を扱っているのだそうです。
「麻は綿より織りにくいので、嫌がる機屋さんも多いんですよ」と話す加藤氏。麻糸は毛足が絡まりやすく摩擦に弱いため、織っている途中で切れてしまうことも多く、敬遠されがちなのだと言います。トラブルなく織り上げるために、13台ある織機は常に2人体制で見守りながら動かしています。さらには一年中保湿が欠かせないため、工場の井戸水で湿度を保っているとのこと。
今回お願いしている生地は、経糸にリネンの糸、緯糸に綿のムラ糸とリネンラミーの混紡糸を使用した珍しい組成。ムラ糸を使うことで軽やかになりますが、異なる素材を組み合わせているため、糸テンションのかけ方や湿度の調整には普段以上に気を使っていると言います。「麻だけの生地を扱うよりずっと難しいですね」と笑う加藤氏。高品質の織物を作り続けるための弛まぬ努力と確かな自信がうかがえました。
最近では、捨て糸をリサイクルして新たな生地を作ったり、イベントに出展して自社商品を紹介したりと、意欲的に活動の幅を広げています。近隣の服飾系の学生のために見学や研修の機会も設けているとか。「SNSから興味を持ってくれる人もいます。一生懸命勉強しようとしてくれる若い世代に少しでも協力したいと考えています」と話す加藤氏。自社の生き残りだけでなく、織物産地としての地域の未来を考える、前向きな姿勢に強く胸を打たれました。
遠州織物の特徴の一つは、撚糸・染色・織布などの工程が専門的な分業制で行われているということ。それぞれの職人の技術が結集し、一枚の高品質な生地が仕上がります。
続いて向かったのは、洗いと染めを行っている『野口染工』。出迎えてくれた代表取締役の神谷道雄氏は湯気を立ち上らせながらゆっくりと回転する釜を見せてくださいました。
今回の生地は3種類の糸を使っているため、素材の違いによるムラが出ないよう丁寧に揉み洗いし、美しい色合いとくったり軽やかな独特の質感を実現させているそうです。

▲稼働している染色釜を着心地スタッフに見せてくださる神谷氏。
1960年代から染めを始めたという『野口染工』。「お客さんから、こんな生地をやってみたい、という声があれば難しいものでも積極的に受けています」と語る神谷氏。たとえば綿と麻では染色に適した温度や時間も異なるため、今回のように素材が混ざった生地を染める時は、綿だけ、麻だけの織物とはまた違った調整が必要になります。臨機応変に対応しながらものづくりを続ける姿勢に、職人さんらしい心意気を強く感じました。
一方で、現場の高齢化が進み、後継者が見つけにくくなっているというお話も伺いました。幅広い要望に応えられる高度な技術がありながら、国内有数の産地でさえ携わる人が減ってしまっている…危機感を覚えるとともに、改めてこの技術を広く伝えていかなくてはと想いを新たにしました。
このように『着心地のいい服』のアイテムはいずれも、丁寧な心遣いによって作られた、細部までこだわりが詰まっているオリジナルです。織り、染め、それぞれの技術の結晶ともいえる着心地のよさを、ぜひご体感いただけましたら幸いです。
これからも「日本製」「天然素材」のコンセプトを守りながら、あなた様の毎日にそっと寄り添うお気に入りの『着心地のいい服』でありたいと、スタッフ一同心から願っています。
