中でも特におすすめしたいのが、「ジャパンリネン刺繍ブラウス」。
生地に施された同色の刺繍が上品なかわいらしさをさりげなく添える、この春おすすめの一枚です。刺繍やレースと言えば誰もが惹かれる意匠の一つ。ほっと心和むこの刺繍はどのようにして生み出されているのか…刺繍レースの産地・石川県かほく市の刺繍工場を訪ねてお話を伺いました。
▲右から岡井氏、着心地スタッフ。
古都・金沢より自動車でおよそ40分。
日本海を左手に見るまっすぐな道を走った先にある、かほく市は群馬県桐生市と並ぶ国内でも指折りの刺繍レースの産地です。
▲幅20mもの機械で刺繍が施されていく。
このたび取材したのは、昭和47年創業の刺繍工場、岡孝株式会社。刺繍柄の型の作成からレース生地の完成まで一貫して行う、国内でも有数の企業です。
「先代の父が創業した当時は、シャーリング刺繍機(刺繍後の余分な糸を刈り取る装置)のみ扱っていたんです。お客様のご要望を受けながらもっと手早く進められないかと考えるようになり、カッティング機、エンブロイダリーレース(刺繍レース)機、パンチング機…と徐々に設備を拡げていきました」と話す現社長の岡井孝志氏に案内されたのは、横に長い形をした工場。まず目に入るのは、およそ20mほどの幅を持つ大きな刺繍レースの機械です。
そこではちょうど「刺繍ブラウス」の生地に刺繍が施されているところでした。シワやヨレのないようピンと張られたリネンの白い身生地に、丸いドット模様が刺繍されていきます。生地に刺繍を施すのは機械ですが、機械を動かすための刺繍の型作りはほぼ手作業。タッチペンのような器具を使い、台紙に手作業で模様を描いていきます。
「もう何年も携わっていますが、毎回試行錯誤しながら作っています」と岡井氏は実際に作業を見せながら教えてくださいました。当初のイメージ通りに機械を動かすために、何度も試作を重ね、これぞというものが決まってからようやく刺繍が始められます。
▲刺繍の型を作っている様子。手作業で描いていく。
実際に機械を動かしてからも、針のメンテナンスや糸の調整など細かな手仕事が不可欠。機械を動かす傍らで、職人が常に気を配りながら作業を進めます。刺繍が終わった後も、余分な刺繍糸を切る作業、切った糸の切れ端を取り除く作業、レースの種類によっては生地の裾に当たる部分を切り落とす作業…などいくつかの工程を経るため、すぐには完成に至りません。地道で丁寧な作業の繰り返しによって、寸分の狂いもない美しい刺繍が生まれるのです。
この工場では、女性用のトップスやインナー、ベビー服などのほか、時にはカーテン用のレースを扱うなど多種多様な刺繍を担っています。「注文を受けて作業を始める前に、刺繍生地が何に使われるのか必ず教えていただくようにしています」と言う岡井氏。ここで刺繍された生地は、染色工場、裁断・縫製工場へと運ばれます。注文通りの刺繍を施すだけなら用途を知る必要はありませんが、岡井氏はその用途に沿って細やかな気遣いを忘れません。
「たとえば、赤ちゃんの服に使われるレースなら少しでも肌に引っかかる部分がないように。肌着に使われる場合も同じです。最終的にどんな姿になるのかを考えて、肌当たりや刺繍の見映えなどに注意しながら調整します」と色とりどりの様々な刺繍が施された生地の束を前にしながら岡井氏は話します。
▲これまでに作った刺繍が保管されている。
今回『着心地のいい服』でお願いした刺繍も、女性用のブラウスになると想定した上で微調整をしてくださいました。「今回のリネンの生地は太番手で編みこんだ生地なので、刺繍糸も通常より少し太いものを使用しています。ただ、太い糸を使うことで見た目の印象が変わってしまわないように、風合いを柔らかくするため表糸のテンションも調整しました」とのこと。細い糸で刺繍すると、せっかくの刺繍柄がわかりにくくなってしまうのだそう。
「最初に描いた刺繍型は柄が小さくなりすぎてしまって」と笑いながら型紙を見せてくださる岡井氏。何度も修正を重ねてできあがった刺繍は、どれも誇らしげに輝いて見えます。優美な意匠のかげには、職人の根気強い緻密な作業と、着る人のことを第一に思う真摯な姿勢がありました。
このように『着心地のいい服』のアイテムはいずれも、丁寧で細やかな心遣いとこだわりによって作られています。
今回仕立てたブラウスは、日本国内で織り上げたリネン生地を使用し、くったりと肌になじむ優しい着心地。丁寧に描かれたドット柄の刺繍と小ぶりな衿が愛らしく、麗かな春の陽気にぴったりの一枚です。ぜひこの機会にお手に取っていただければ幸いです。