今回ご紹介したいのは「グラデーション染めカーディガン」です。さっと羽織れる薄手のカーディガンを特殊な技法で染め上げています。自然にゆらめく美しい色彩をどうやって生み出すのか、東京・茗荷谷にある染色工場にお話を伺いました。

創業114年を誇る染色工場の老舗、日本の衣服の変化と共に歩んだ歴史。

茗荷谷の閑静な住宅街を進んだ先、ある建物の窓から湯気が上がっているのが見えます。通りに面したその工場こそ、明治42年から続く老舗・内田染工場。現社長の内田光治氏が、私たち着心地スタッフを快く出迎えてくださいました。

内田染工場の始まりは、群馬県・桐生市の呉服店に生まれた初代社長が、東京に出て染色業を起こしたこと。「呉服店出身なので、最初は和装に使われる糸の染めが多かったようです」と語る内田氏。当時は何人もの職人を抱えていましたが、空襲で工場が焼けてしまい、戦後は小さな染色釜をなんとか手配するところから再出発しました。

▲内田光治氏(左)と 着心地スタッフ(右)。

▲内田氏から説明を受けるスタッフ。工場内にはたくさんのだ衣装様々な染色

「その頃から洋装が一般的になって、呉服ではなく靴下の染色が主な仕事になりました」幼い頃は靴下の山に囲まれるようにして育ったという内田氏。

しかし、徐々に海外製のものに押され、国内での靴下の生産は減少。
内田氏ご自身がファッションに興味を持っていたこともあり、次第に洋服の染色を扱うようになりました。「最初は海外で作った大量生産のTシャツなどの染色を請け負っていました。

でも段々と、もっと職人の技術や強みを活かせるような、価値の高いものを作っていきたいと考えるようになったんです」。グラデーション染めはまさに、内田氏のそうした志から誕生した技法でした。

職人の緻密な試行錯誤によって生み出される、洗練された色の移ろい。

グラデーション染めは、生地を裁断し縫製して服の形に仕立ててから染め上げる「後染め」で行われます。長方形の釜に、蒸気によって60度まで温度を上げた湯と染料を入れ、そこにハンガーで吊るした製品を漬けて染めていきます。最初は深く漬け込んで全体を薄く染め、少しずつ吊るす高さを変えて染料の量も増やしていくことで、上から下にかけて色の濃くなるグラデーションができ上がります。

しかし、ただ手順通りに漬ければ良いわけではありません。むらなく自然に色が移り変わるように見せるためには、漬け込む時間や浸す高さの微調整はもちろん、「服を釜の中で揺らす」という工程が必要になります。

「この工程がないと綺麗なグラデーションにならず、色が直線で段になって分かれてしまうんです」と実際に職人さんの作業を見せながら教えてくださいました。この一連の作業は職人さんの手によってじっくり丁寧に行われます。

つまり、すべての服のグラデーションを綺麗に仕上げるためには、職人さんが数時間つきっきりで釜を見守る必要があるのです。また、季節や気候によって水の温度や漬ける時間などの調整は必要不可欠。常に一定の美しさを保つために、大変な手間がかけられています。

▲染色釜に漬け込む様子。職人さんの手によってじっくりと丁寧に行われます。

人と人とのかかわりを大切に――。
「できない」は言わない、信頼されるものづくりの姿勢。

グラデーション染めに限らず、数々の特殊な染色を担ってきた内田染工場は服飾業界から高く評価され、信頼されています。オリンピックスタッフのユニフォームや、アーティストのコンサートで使われる特別な衣装など、いわゆるオートクチュールの染色依頼も少なくありません。馴染みのデザイナーから急な依頼が飛び込んでくることもあるのだとか。「難しい依頼ももちろんありますが、極力ご要望に応えたいと思っています」と語る内田氏。創意工夫を凝らし、要望通りの仕上がりを目指す―そのものづくりの姿勢を叶えるのは、穏やかな笑顔の内に秘めた熱い向上心だと感じました。

現場でお話を伺いながら思ったのは、比較的若い社員の方が多く、皆さんとても熱心に働いていらっしゃるということ。取材中もひっきりなしに職人さんが内田氏のもとを訪れ、染色の仕上がりについて相談している様子が窺えました。一緒に働く社員一人一人を親身に思う内田氏の人柄があるからこそ、質の高い技術が引き継がれ、より美しく洗練された染色が叶うのです。

風にそよぐ新鮮な色のゆらめき――。
職人の手による傑作をぜひお試しください。

「グラデーション染めカーディガン」は、華やかでありながら夏らしい清涼感を併せ持った軽やかさが魅力。風に揺れるたびに香り立つような新鮮なゆらめきを見せる、とっておきの一枚に仕上がりました。ぜひ詳細をご覧ください。