2022年春アイテムの中で、今回取り上げるのは「やわらか接結ボーダータートル」。接結素材ならではの暖かく肌当たりの良い風合いと、心和む色合いが嬉しいこの春のとっておきです。ベビー服にも採用されるという優しい生地の秘密を知るべく、和歌山県・海南市を訪ねました。
親子三代に渡って糸を編む。純日本製にこだわる揺るぎない信念。
今回、取材でお話をお伺いしたのは、昭和48年創業の丸義株式会社です。
「和歌山県は昔からニット生地の名産地として有名なんです」と語ってくださったのは代表取締役の志茂義浩氏。御祖父様の代から親子三代に渡って日本製にこだわりニット生地を生産してきたとのこと。ニットというと一般に「毛糸などで編まれたセーター」のようなものをイメージする方もいらっしゃるかもしれません。しかし本来ニットとは、広く「糸を編んで作られたもの」を意味します。
「今回使用している生地は、丸編みという技術で作られています。筒状の生地が仕上がるので、それを切り開いて反物にするんです」朗らかに説明しながら、志茂氏が見せてくださったのは大きな円筒状の機械。スイッチを押した途端に大きな音を立てながら、まるでメリーゴーランドのように回り始めました。
▲志茂氏に丸編みの仕組みを伺う着心地スタッフ。
▲編み機にかけられたたくさんの糸の束。
よく見ると、機械の上部に備え付けられたたくさんの糸が、編み針を通して凄まじい速さで生地を編みあげているのがわかります。「接結生地は二枚の生地を重ね合わせ糸で留めています。5cm四方のスペースにどれくらい留め位置を作るかで、編み柄を多彩に変えることができるんです。編み針の設定や間隔の空け方で調整するんですよ」接結の強みは何と言っても、生地と生地の間に空気を含んで柔らかく暖かいこと。
「やわらか接結ボーダータートル」はそれに加え、歪みにくく、型崩れしにくい接結生地を選んでいます。編みあがった生地は一つ一つ目検で問題がないか確認し、厳しい基準をクリアしたものだけが出荷されるのです。
「ベビー服にもよく起用していただける生地で、かれこれ15年以上は各メーカーさんにご愛顧いただいています」と語るのは大阪の生地メーカー・ロベリアの西川富夫氏。志茂氏と組んで、これまでいくつも優れた生地を世に生み出してきました。「赤ちゃんの肌に直接触れるものですから、品質管理は徹底しています。加えて、風合いが柔らかく、明るい色味が多いのも特長ですね」と語りながら見せてくださった生地見本には、可愛らしい柄やホッと心和むような色合いの生地がずらり! 着心地はもちろん、安全性にこだわりながらも華やかなデザイン性は失わない、そのどれもがすばらしい生地でした。
▲丸義株式会社・志茂氏(左)と着心地スタッフ
●左:ラベンダー系 ●右:グレー系
これほど優れた技術を持ちながらも、日本国内のニット工場は往時に比べて数を減らしてしまったと言います。「現在、日本で販売されている衣料品のうち、国内生産されているものは全体のたった3%程度しかありません。1990年代以降、海外製の大量生産品に押されてしまっています」予想を大きく下回る数字に驚く着心地スタッフを前に、真剣な面持ちで語りながら志茂氏はこう続けました。「昨今少しずつ日本製の良さを見直す人も増えてきましたが、それでもまだまだです。そんな中でも日本製ならではの品質の良さを、今の時代に求められるニーズに合わせて試行錯誤しながら、できる限り守り続けていきたいと思っています」その言葉を噛み締めながら改めて触れた接結生地は、ハッとするほど柔らかく優しい手触りでした。
糸を紡ぐ人、染める人、生地を編む人、縫製する人…服一着を作るのにどれほどの人がかかわっているのでしょうか。この技術や文化をこれからも広く伝えていきたい―創刊から7年目を迎えた今、『着心地のいい服』スタッフ一同、その思いを強く実感いたしました。