2023年春アイテムで、中でも特におすすめしたいのが、「綿シルクデニムジャケット」。デニムと聞くと、重い、硬い、という印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。そんなイメージを払拭すべく考案した、素材にこだわった大人のための柔らかなデニムジャケットです。そのジャケットに使っている生地の工場を見学するため、国内随一のデニムの産地・三備地区を訪ねました。三備地区とは、旧国名でいう備前・備中・備後を跨いだ地域のこと。岡山県の南東から西部、広島県の東部を指します。古くから綿の織物産業が発展していたこの地域では、1960年代以降デニム生地の生産が盛んになっていきました。
このたび取材したのは、広島県・福山市のデニム生地メーカー・有限会社タンチテックス。さまざまな生地の企画を考案している会社です。「もともとこの地域には備後絣という綿織物がありました。その藍染の技術が基になってデニムの生産に発展したんです。今では国産デニムの90%以上がここで作られています」と語るのは取締役の丹地氏。デニムと言えばなんとなく現代的なファッションのイメージがありますが、日本で発展した背景には「備後絣」という古くから続く伝統がありました。三備地区は今や、世界中からデニム生地の引き合いがあるほどの一大産地になっています。
▲右から、丹地氏、ご子息の俊貴氏、着心地スタッフ。
そもそもデニムとは、インディゴ(藍)で染めた糸を経糸に、無染色の糸を緯糸にして織った生地のことを言います。綿糸を使ったものが一般的ではありますが、素材は多岐に渡るため一口にデニムと言ってもその手触りや光沢、重さ(オンス)や色味は様々です。「今回の生地は、経糸を綿に、緯糸をシルクにしています。綿だけで織ったものに比べて光沢があり、軽くしなやかに仕上がります」ずらりと視界いっぱいに並ぶデニム生地の中から、丹地氏は今回使用する生地の見本を見せてくださいました。確かに手に馴染むような独特の質感があり、絶妙な光沢感もシルクならでは。従来のデニムのイメージとはまったく違う軽やかさが感じられます。「一度洗うともっと柔らかくなりますよ」と丹地氏。洗うことでデニム特有のハリ感がやわらぎ、生地本来の柔らかさが際立つのだそうです。
▲多種多様なデニム生地の数々。
デニム生地をたくさん見せていただいた後、丹地氏に連れられて向かった先は同市内で生地を織っている猪原勝織物。出迎えてくださった代表の猪原氏に案内されてまず驚いたのは、12台もの大きな織機とその生地を織り上げるスピード、そして紺色の綿埃でした。藍染された糸から繊維が散った結果、独特の色の綿埃が生まれるのです。織機について説明してくださった猪原氏の指先も、うっすら青く染まっていました。まさに、長年デニム生地の生産に携わっている職人さんの手です。
しかし職人さんの腕があっても、シルクという繊細な素材を扱うには工夫が必要だと言います。「シルクは一般的な繊維に比べて細いので、通常のデニムと同じ設定で機械にかけると糸が切れやすくなってしまうんです。織るスピードを緩めて、エアーの気圧を上げすぎないよう調整しています」と猪原氏。ここで使われているエアジェット織機は、高圧の空気(エアー)で横糸を動かして生地を織る仕組みになっています。途中で糸が切れても機械は止まらないため、織り上がってから不備に気づいたものは残念ながら製品化できなくなってしまうのです。
▲インディゴで染めた経糸と無染色の緯糸で織り上げていく。
「デニムにシルクを使うのは珍しいことですし、きっと苦労があったと思うのですが…さすが綺麗に仕上げてくれました」と嬉しそうに語る丹地氏。綿シルクデニムの上品な光沢と柔らかさは、丹地氏の探求心と猪原氏の熟練の腕によって生み出されていました。
▲エアジェット織機の説明を受ける着心地スタッフ。
今回の取材で強く実感したのは、「デニム」と一言でまとめても実際はさまざまな種類、さまざまな生地があるということでした。タンチテックスでは従来の生地に加え毎年およそ10品番ほど新しい生地を考案しているのだそう。オーガニックコットンなどの天然素材を積極的に使用することはもちろん、糸くずや生地を裁断した後の裁断くずをほぐして再利用するなど、新しい取り組みも進めています。「貴重な素材を無駄にしないよう、リサイクルして次に繋げる取り組みはもう定番化しつつありますね」と笑顔で語ってくださったのは、丹地氏のご子息であり次代を担う丹地俊貴氏。備後絣から始まり、今に至るまで日本のデニムを牽引してきた三備地区には、この先の時代を長く見据えた心意気がありました。
ノンストレスできれい見え
軽く羽織れる大人のデニム
光沢感のあるシルク混の柔らかなデニム素材で仕立てました。内側のドローコードでウエストを絞ってスタイルアップすることも。 ノーカラーなのでスカーフなども巻きやすく、首もとがすっきり見えます。 ゆったりと着られ、窮屈感がありません。